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2010年2月 5日 (金)

あたりまえの風景

 朝食はトーストとちりめんと野菜ジュース。フレンチトーストなんて作っている時間はない。こんな朝食ではよくないなと思うが、作れないのだから仕方がない。テレビはつけない。ラジオをつけているが聴いてはいない。ぼくは新聞、息子はチラシを見ながらトーストを口に運ぶ。しゃべるのは息子。ぼくは聞いてばかり。意識の半分は新聞に置いている。
 自転車で保育所に向かう。ルートがいくつかあり、息子が決める。「今日は歯医者さんの前の道にして」。「おう、任せろ。サイクロンだ!」とペダルをこぐ足に力を込める。保育所では別れのタッチ。「お父さん、早く迎えに来てよ」「分かったけん、先生の言うことをよく聞けよ」。それから出社するが、いつも遅刻だ。

 午後5時を過ぎるとMacBookの電源を落とす。それ以降は仕事をしない。できないのだから仕方がない。
 保育所に行く。息子はぼくを見つけるとうれしそうに先生に言う。「お父さんが来たので帰ります。さようなら」。息子はぼくに飛びついてくる。大袈裟な再会シーン。しかし、ぼくらにとってはあたりまえの風景。金曜日は布団を持って帰らなければならない。自転車の後部に息子を乗せ、前のカゴには保育園バッグと衣類。左肩に仕事のバッグ、そして右肩に布団バッグ。ヨロヨロと自宅まで帰る。
 自宅に着くと、息子はまず仏壇に向かって「お母さん、ただいま」。手を洗ってうがいをして、仮面ライダー2号のDVDを観る。ぼくは朝食の食器を洗って、夕食の準備に取りかかる。夕食は食材を届けてもらっている。今夜はきのこの煮込みハンバーグ。作っていると息子が「手伝っちゃん」とやって来る。本当は邪魔なのだが、「お前が手伝ってくれるとおいしくなるなあ」とおだてる。息子は「そうやろ」と自慢げ。
 夕食もテレビをつけない。ラジオがついているが聴いてはいない。夕食の主役も息子。保育所での一日を話してくれる。「ゆうちゃんにたたかれたけん、やめてっち言ったらごめんねっち言いよった」「給食な、一番やったんで」「発表会の練習をがんばったけん、先生がシールくれたんで」。ぼくは「そうな」「へえ、よかったな」とうなづく。疲労を感じる時間帯だが、そんな素振りは見せられない。自分の食器は自分で下げる。わが家のルール。ぼくが食器を洗う。息子は仮面ライダーの続きを観る。

 風呂上りは二人で牛乳を飲む。ドライヤーで髪を乾かすが息子は嫌がる。寝室までかけっこする。息子はベッドにぬいぐるみを持って入る。今夜はリラックマ。「ねえ、リラックマくん。ぼくのお父さんな、すぐぼくを怒るんで。悪いなあ」。ぼくも負けずに「ねえ、キティちゃん。うちのチビな、鼻くそばっかりほじるんで。きたねえなあ」。そして頬を寄せ合い、息子の肩をトントンとなでる。これは「だいすきトントンねんね」。ほかにも「こちょこちょねんね」「ゴロゴロねんね」などバリエーションがある。

 これがわが家の風景。以前とは全く違う。
 ぼくより後に起きてきてボサボサ頭で「おはよう」と言う人がいなくなった。「行ってらっしゃい」と送り出してくれる人がいなくなった。息子を迎えに行っていた人がいなくなった。身長に合わせて高さを決めたキッチンを使う人がいなくなった。息子とトントンねんねをしていた人がいなくなった。息子の最も好きな人がいなくなった。そして、これがあたりまえの風景になってしまった。

 あれから、もう一年。昨日、法要を済ませました。

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