ごめんなさい
自転車で保育所から帰り着くと、息子が「あんな、いいものがあるんで」とカバンから本を取り出しました。書き込みができる字の練習帳のようです。「これな、保育所でこそっともらったんで」。ぼくは「えっ」と思いました。「それっち、みんなにくれたんやねえんか」と聞きました。息子は「違うよ」。「お前、取ったんか」と問い詰めると息子は、「Sくんも取ったんで」と泣き出しました。
ぼくは、「返しに行くぞ」と息子をクルマに乗せました。車中で「お父さんはな、人のものを取る子は好かんっち言いよんやろ。お前、夕飯なしや」と叱りました。息子は泣いてばかりです。保育所に着くと3月までの担任の先生がいました。ぼくが謝って返すと、先生は「何か理由があるんやろ。そんなことをする子やないけん、あんまり怒らんで」と息子をかばってくれました。息子はさらに大泣きで息苦しそうでした。
帰りの車中、息子は「お父さん、ごめんなさい」と謝り続けましたが、ぼくは「もう知らん」と突き放しました。夕食の準備をしている間も「お前なんか知らん。あっち行け」。それでも台所に立っているぼくのところにきて「ごめんなさい」。それを何度、繰り返したでしょうか。ぼくは「もう、人のものを取らんっち約束できるか」と、息子を目を見つめました。「うん。約束する」と息子。「分かった。お母さんに『もう、しません』っち言って来い。お母さんもお空で怒りよんで」と僕が言うと、仏壇に向かって「ごめんなさい」と頭を下げていました。夕飯を食べながら、息子がつぶやきました。「ぼくな、字の練習がしたかったんや」。ぼくが「それやったら、お父さんに言いよ。本屋に行って買っちゃんけん」と言うと、「そうする。ごめんなさい」とまた謝りました。
息子が大きくなるまでにはいろいろとあるでしょうが、忘れられない事件の一つになりそうです。まだまだ小さいと思っていましたが、育児が次の段階に入ったことを感じました。「一人親だから」と言われないように、親として言うべきはしっかり言っていきたいと思っています。
| 固定リンク
| コメント (2)
| トラックバック (0)
最近のコメント