妻のこと
34歳で生涯を閉じた妻について。これまで避けてきたわけではありませんが、ぼくの筆力ではこの複雑な気持ちを表現できなかったのです。今も自信はありませんが、思いの一端でも伝わればと考えています。
先日、郊外の大型スーパーで7800円のスーツを買いました。それについてツイートしました。「妻がいたら、こんなスーツを買わせなかっただろうな。外で働く男にそんな安いもの着させるわけにはいかないって言うに決まっている。そんな人だった」。妻はいつもぼくを一家の主として盛りたててくれました。自らもフルタイムで仕事をしていましたが、まずぼくのことを優先してくれていました。
家事や育児でも手を抜くことを知りませんでした。ぼくの仕事が深夜にまで及ぶことも多く、一人で息子を寝かせつけた後も洗濯をしながら翌日の夕食の下ごしらえをしていました。一言で表すと負けず嫌いでした。ぼくとは対照的に、決して弱音を吐かない人でした。四つ年下でしたが、見習うことの多い人でした。
妻については、いつも考えていることがあります。「ぼくと結婚しなければ死なずにすんだのかもしれない」ということです。あまりにも早く訪れた彼女の死は、もし別の人生を歩んでいたならば避けられたに違いないと思っています。忍び寄ってきた死に対して何も抵抗してやることのできなかった無力なぼくは、決して許されることはないでしょう。
妻は、もう一人子どもがほしいと言っていました。息子にきょうだいが必要だと。自分とぼくが死んでも、きょうだいで仲良く助け合っていってほしいと願っていました。その思いが叶わなくなった今、ぼくは息子が結婚して子どもをつくるまでは死ねないと考えています。ぼくが死んだら、息子は一人ぼっちになってしまいます。それだけは何としてでも避けたい。
それまでのぼくは、父が49歳で亡くなったこともあり長生きできないだろうしそれはそれで仕方のないことだと思っていました。今は違います。息子が成人したころには、大して役に立たないどころか迷惑を掛けているのかもしれません。それでも、唯一の親として生きていることに意味があると思っています。おそらくは妻もそれを願っているのではないでしょうか。
ぼくと息子が暮らす家は、妻がいたころと全く変わっていません。クローゼットは未だに妻の服が占領してしていますし、キッチンもあの日のままです。変化といえば、仏壇を用意したくらいでしょうか。仏壇はリビングのテレビの隣に置いています。仏間もあるのですが、あえてぼくと息子が長く過ごすリビングを選びました。息子が少しでも母親を近くに感じられるようにというぼくの思いからそうしました。
このブログに書いたこともありますが、息子は朝の「おはよう」に始まり、一日に何度も仏壇に向かって話しかけます。返事はありませんが、母親との絆を確認する大切な対話になっていると確信しています。
もちろん、いいところばかりではありませんでした。妻とは言い争いもよくしました。しかし、それも今となっては思い出です。街中を歩いていても、この店には一緒に来たなあなんて考えてしまいます。
今はただ、妻が成長を楽しみにしていた息子を過不足なく育てることを考えています。息子は、妻がこの世に生きた証しです。それはぼくの思いで、息子にはそんなことを気にせず自分の人生を歩んで行ってほしいと思いますが。
空から見守ってくれている妻は、父親としてのぼくをどう評価しているでしょうか。及第点をくれるでしょうか。結構、辛口でしたからね(笑)。どちらにしても、あのころのように「もっとがんばれ」と応援してくれていることは間違いないでしょう。その期待に応えられるように、しかし必要以上に肩肘張らずがんばっていきたいと思っています。
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コメント
人生は結果がすべてじゃないと思います。彼女はあなたと結婚して、ご子息と出会えて幸せだったと思います。
あなたのこともよく話しました。
私「テキトーに手を抜いて、要領よくやっときゃいーのにね」
彼女「でも、ああ見えて根は真面目なんで。私にできることは、彼の時間を作ってあげることと、あとは見守ることやなぁ」という、その言葉の影にあなたに対する誇りみたいなのを感じていました。
あの時期は確かに彼女も、あなたのまわりも、あなたの体や精神的なことに気を取られていましたね。
共通の友人が彼女の訃報を知ってから、かなり長いあいだ、「彼女が血圧高いの知りながら、私はなぜ彼女に病院に行きよ、ともっと強く勧めなかったのか」と、自分を責めていました。
確かに彼女を亡くしてから、「死」がかなり身近になりました。
1人で子育てする苦労は計り知れない。まわりにはけしてわからない。
あなたはこれからも頑張るのでしょうが、重ねて言いたい。
無理をしなさんな。手を抜きなさい。周りの意見に耳を傾けなさんな。自分とご子息が幸せなら、周りの非難なんて、無視。
そして、「僕と結婚していなければ」なんて、考えなさんな。彼女が悲しむ。
彼女のほうがきっと苦しんでいるだろうに。「私と結婚したからあなたにいらぬ苦労をかけた」と。
あなたが彼女との出会いを悔やんでいないなら、妻と出会えてよかった。最愛の息子とも会えた。とだけ思ってあげてくださいね。
私はけして彼女と長い付き合いではないけれど、バランスの取れた、お似合いのカップルだなぁ、と思っています。
内容が支離滅裂になってきました。感情的になりすぎたかしら。ツイッターでもなんでもいいから自分の感情を押さえ込まず、みんなの知恵をかりまくって、要領よく人生を歩んでくださいね。ご子息のためにも、彼女のためにも。
投稿: アベシ | 2010年6月20日 (日) 22時24分
アベシさん
心のこもったコメントでした。ありがとうございました。
妻が幸せだったかどうかは、正直なところよくわかりません。夫婦としては、互いが相手に求めるものと実際の資質にギャップがあったことは事実だと思います(まあ、これはどの夫婦にもあることでしょうが)。亡くなる数日前に将来について話しました。妻はこの家族に大きな希望を持っていました。実現できなかったことは残念ですが、彼女が最後まで前を向いていたことはぼくにとって大きな救いとなっています。
一人での子育ては、思っていた以上に困難です。残業もせずに帰って子どもと食事をして風呂に入れるだけだろうと思う人もいるかもしれませんが、それが毎日となるとストレスに感じてしまいます。でも、アベシさんのアドバイスのように思いつめても仕方がありません。手が抜けるところは、どんどん抜いていきたいと思います。
ストレスといえば。最近は息子に手を上げることが少なくありません。しつけとしてしているつもりですが、すべてがそうかと問われたら自信がありません。このままエスカレートしてしまうかもしれないという怖さも感じています。ですので、親としての自分を律するとともに、ストレスをため込まないこようにしたいと考えています。
妻が亡くなってから、職場の理解があって残業から外してもらっています。ありがたく思うべきだと分かっています。しかし、翌月から収入が15年前の社会人1年生のころより減ってしまいました。公私ともに突然訪れた環境の変化に耐えようと努力したつもりでしたが、それに対する社会の評価はこの程度かと思うと落ち込みました。「働かざる者~」なんでしょうが、もう少し何とかならないものかと考えてしまいます。
※6月28日に差し替えています。
投稿: 中山カオル | 2010年6月27日 (日) 02時09分
メッセージ読みました。
1人の子育ての大変さは想像できてたけれど、会社がらみの話は、確かにキツいな。しかもそこまで収入減になっていたら…やるせないなぁ。社会って、日本の社会って、1人で子育てする親にほんと、キビシイんだね。
子どものことを気にしながら、時間を気にせず仕事だけに打ち込む、ってのは不可能だものね。でも働けないことを子どものせいにはしたくないし。自分だって残業して働きたいわ
と思うけど、やっぱり子どもとの時間を削りたくはない…そのジレンマ、少しわかります。
ご子息に手をあげることが増えたとか。それは今だけと思います。彼が小学生になったら落ち着くんじゃないかな?ウチも4、5歳のころは蹴ったり叩いたり多くて
ほぼ毎晩、寝る時に息子が泣きながら「もう叩かないでね」と訴えられました。私も冷静になっている時間なので、叩いたり蹴ったりしたことは素直に謝りました(叩く蹴るは、私の感情が暴走してるだけ)。ただ、そのきっかけを作ったのはキミで、キミのあの態度は許せない、そもそもどうしてあーゆーことするの?とかいう話を、2人が納得いくまで話し合っていました。私も叩きたくないから、こういうのは止めて欲しいけど、どう思う?って。
子どもはいくら恐怖心を与えても反省しないけど、納得すれば反省するもの。同時に反省できる親じゃなきゃいけないと私は思います(私の親父は、反省できない馬鹿親だったから)。
いまではお互いにすっかり落ち着いて、手を上げることは、年に1、2度?蹴りはなくなりましたね。あと少しだ
彼女は…そーねー。はたから見る限り、彼女はあなたのことが大好きなんだなーってのはビシバシ感じてたけど…。逆にあなたはどうなんだろう?と思ってました。このブログを1年読んで、あなたの、彼女への思いの深さにびっくり?してるくらいだもの。いま彼女が空からこのブログを読んでたら「そういうことは早く言ってよ」というのも多いのでは?
あなたとご子息が今後、どんな人生を歩むかわかりませんが、幸せに暮らせることを祈っています。あと、いつかはわからないけど、新たな出会いがあったら、不自然に拒否するのではなく、ごく自然に受け入れてほしいと思います。多分、彼女も許してくれると思うよ。あなたが心の中で「お前が一番だよ
」と思い続けている限り。
長くなりました。思い付くままに書いたので、読みづらかったり、不愉快な思いをしたかも。お許しください。あなたとご子息がずっと幸せでありますように。
投稿: アベシ | 2010年6月28日 (月) 00時06分