天国の電車
ラジオ体操から帰ってきた息子は、「もう一回寝るわ」と寝室に行きました。しばらくして、朝食の準備ができたので起こしに行くと、何か話していました。
「うんうん、そうな。うん、分かった」
ぼくが「お前、誰と話しよんのか」と聞くと、「お母さんや」。息子の手には妻の携帯電話がありました。妻の鏡台の引き出しにしまっておいたものでした。「これでな、お母さんと話しよったんや」
息子は続けました。
「お母さんな、天国の電車に乗っちょんっち。ガタンゴトンっち音がしよん」
「へえ、そうなん。その電車は特急やろか」
ぼくが聞くと、息子は携帯電話を再び頬にあてました。「もしもし、お母さん。その電車は特急? お父さんが聞きよんのや。…そうな、分かった」
ぼくの方を見て、うれしそうに言いました。
「あんな、普通列車っち」
ぼくは「ほら、早く起きてご飯を食べんと保育所に遅れるぞ」と急かしました。
「そうや、お父さん。今日な、保育所の帰りに仮面サイダー買っていい?」
「この前、買ったばかりやろ。そうやな、お母さんは買っていいっち言いよんのか」
息子は「聞いてみる」と言って電話を持ちました。
「もしもし、お母さん。仮面サイダーを買っていいやろ。…そうでなあ。いいわなあ。うん、ありがとう」
得意げに続けました。
「ほら、買っていいっち。お母さんが言いよんのやけん、絶対に買わんと悪いわな」
そして、ベッドから起き上がると、こう言いました。
「あ~あ、本当のお母さんと話してえなあ」
朝から泣かせる息子です。一日中、この言葉が頭から離れませんでした。
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